道にいてはいけないおっさん
「言ってきまーす」つって。
朝、小学校に向かって長男が元気に出て行ったんですけど。
暫くしてキクさん(妻)が「彼、水筒忘れてった」って。
僕は休みの日だったんですね。
ほら、休みの日の朝ってこっちは流木みたいになってるじゃないですか。
生きているというより漂っている訳じゃないですか。
てんとう虫くらいなら顔歩いていても気にしないし。
場として提供するし。
でもその状態から一気に覚醒するわけですよ。
上は寝間着のまま、下だけストレッチジーンズに足を通して。
完全にボアだった。
確かボアの曲も上は寝間着のまま伸縮性のあるジーンズに足をねじ込んでましたもんね。
僕の寝間着は一軍落ちしたTシャツなんですね。
ただね、僕のセンスでは一軍でもすでにダサくて。
胸に麻で出来たカラフルで異様に小さいポケットがついたTシャツ。
今は外に出る事の無い二軍ですけど、これ一軍だった時期があんだよな。
我ながらどんな気持ちでこの服買ったんだよ。
なんなんだよこのポケット。
何狙いのポケットなんだよ。
こんな一軍でもコールド負けするレベルなのに着古されてビヨンビヨンに伸びた二軍服で外に出ちゃうってのは、輪ゴム鉄砲で戦場に出ちゃう勢いなんです。
でも僕は急いだ。
キクさんが水を入れた水筒をバトンキャッチして、ボッサボサの髪のまま家を飛び出すんです。
っていうのも。
門の中に入られたらそこはもうサンクチュアリ。
こんな不審者は弾き返される。
下手したら撃たれる。
僕が門番なら躊躇わず発砲してる。
銃がなくても近くにある一番尖っているもので突き刺してる。
門を越えられていたら保護者カードみたいのを持って裏の小さい門から受付を経由して校舎に入らなければならない訳で、くそ面倒くさいんです。
注目も浴びるし。
長男が家を出てから少し時間が経ってて、すでに門を越えてんじゃねーかなってくらいの時間が経ってて。
一か八かで猛ダッシュですわ。
平日の通勤中の会社員や学生に見られながらダサいおっさん猛ダッシュですわ。
真っ直ぐな道の前方に長男を見つけてうおおおおおって。
水筒持ったダサTの髭面おっさんがうおおおおおって。
もうすでに何らかの罪が成立してそう。
無事に門をくぐる前にバトンを繋ぐことに成功して。
「はぁはぁ、じゃあ、気を付けていってらっしゃい、はぁはぁ」
残されたのは平日の通勤ラッシュ時に手ぶらで、カラフルな小さい胸ポケットTシャツの髭面ボサボサ髪のおっさんが一人。
いてはいけないおっさん。