【日常】誰もが分かる田中さんが無断休暇をとった理由
何故か忘れられない人っていませんか?
強烈なインパクトを残した訳でもないのに、何か特徴があった訳でもないのに、何故か心の片隅に敷物しいて陣取って、事あるごとにフラッシュバックする人。
今日はそんな何故か忘れられない人の話…ではなく、ちゃんと強烈なインパクトを残した人の話でも。
忘れられない人の話はちょっと忘れちゃったので、そりゃ当然忘れられないよねっていう人物の話をします。
僕が郵便局に内務で深夜のアルバイトをしていた時の事。
基本的にその深夜帯は20代前半の若者で構成されていたんだけど、一人だけ田中さん(仮名)という50代のおじさんがいた。
最古参で大ベテラン。
マイク真木のように真っ白なロン毛を束ねたサーファースタイルで、目はキラッキラしていた。
只者じゃない雰囲気だ。
仕事は真面目で正規の局員(民営化前)からの信頼も厚く、見た目もダンディだし優しくてカッコいい。
そんなパーフェクトヒューマンからは様々な話を聞いた。
カナダに住んでいた話。
もう英語は放せなくなってしまった話。
独身だけど生き別れの娘がいる話。
弟さんが上智大学を卒業してエリートになった話。
麻薬を吸ってからジェットコースターに乗るとすごいよって話。
奈良には天河神社という縁がないとたどり着けない芸能の神様が祀られている場所があるって話。
映画が大好きって話。
ピンク・フロイドが大好きって話。
北朝鮮産のは質が悪いよって話。
ちょっとタイムね。
なんかね、ちょこちょこヤバい話が混じってるんだけど?
そう。
田中さんは前にチョッとねって。
カナダにいる時に少しねって。
お薬を嗜めていらっしゃったようで。
今でこそカナダではマリファナ合法化の動きはあるけど、当時はもちろん違法。
でも比較的容易に入手できたそうだ。
「プレデターって映画あるだろ?あのプレデターがさ、小さくなっててさ、真っ白になっててさ、腕からひょこって出て来ては少し歩いてまた皮膚の中に戻っていったって事もあったな」
田中さんね。
話がリアル過ぎ。
あーこりゃガチでやってたわってのがよく分かるよね。
っていうかマリファナには幻覚作用はないんじゃ…。
取り敢えず正確に何をやっていたのかまでは分からないけど、その類いですね。
映画好きだからその幻覚が見えちゃったんだね。
他にも、あの映画のどこどこの演出は経験者じゃなきゃ出来ないだろうとか。
芸能人は見た目でだいたいやってる奴は分かるとか。
興味深い話は続くが、いつも最後にこうしめくくる。
「でもやっぱりな、ああいうのは年とってからはやるもんじゃないよ。仕事とか何かに縛られていたりすると楽しめないんだよ」
年取ってなくてもやるもんじゃねーだろって思う訳だけど、かなり味わい深い人生を歩んでいる田中さんに興味津々の僕。
ただこの締めくくりの言葉。
年取ってからはやるもんじゃないって話。
日本に戻ってきたのは結構前だった筈なのでね。
ん?ってなるよね。
おい田中ってなるよね。
これはちょっとって思って。
僕よりも古くからやってる同年齢の先輩に聞いてみた。
「それさー、俺も一個怪しいと思ってる出来事があってさ」
この先輩はかつて田中さんと同じ時間帯で、なおかつその枠は2人体制だったのでコンビを組んでいた。
そんなある日こんな出来事があったという。
田中さんが時間になっても来ない。
局員ですら分からない事を聞きに来るくらいのベテランである田中さん。
仕事も真面目で、賃金は発生しないけどいつも1時間くらい前からやってきて仕事を始める局内の大黒柱ですよ。
それが時間になっても来ない。
しかも連絡もつかないと。
なんとそのまま数日間音信不通。
一週間くらい経ったある日、その先輩の電話が鳴った。
電話の相手は田中さん。
「俺はもう駄目だぁゴメンなぁ駄目だぁ」
泣きながらそういって電話は切れた。
ほとんどイタ電。
いたずら電話でもあり、痛い電話でもある。
その翌日から田中さんは復帰した。
休んだ理由は語らないが、とにかく復帰した。
どう考えてもアレだがとにかく復帰した。
その日から田中さんは言うようになったらしい。
「でもやっぱりな、ああいうのは年とってからはやるもんじゃないよ。仕事とか何かに縛られていたりすると楽しめないんだよ」
おめーやりやがったな!
「芸能人はどんな所を見ればやってるかどうか分かるんですか?」
「そりゃーまずは目だよ。キラッキラしているのがいると、間違いないよ。ミュージシャンに多いな」
そういう田中さんの目はキラッキラ輝いていた。