三つ巴紋が記されしパン
僕には行きつけのお店があって。
僕が何時に行こうが相手をしてくれる友のような存在の行きつけの店があって。
まぁ西友なんですけど。
西の友と呼んでいるんですけど。
仕事終わりの深夜にやってるお店って限られてて、結局西友なんですよ。
僕のような不真面目タクシードライバーを受け入れてくれるお店なんて西友くらいしか無いんですよ。
で、行きつけの深夜の西友にはインストアベーカリーが入っていて、そこの売れ残ったパン達を眺めていたらわりと尖ったパンが並んでいる事に気づいたんです。
雷ブリュレと書かれているそのパンには、雷神の太鼓に入ってるあの三つ巴紋が記されていた。
ついカッとなって作っちゃったパンなのかな?
親がお菓子のクレーンゲームにタックルかましている所を見ちゃった後に開発したパンとかなのかな?
この雷ブリュレがとにかく売れ残りまくってて。なんだか雷神に申し訳ないような気になったので1つカゴに入れてレジに持っていった。
三つ巴紋は粉砂糖でデザインされていて、深夜の力強いレジ打ちを抜けた頃にはやや崩れていた。
本当はもっと綺麗にクッキリと紋が描かれていたのだけど、とにかく脆い。
雷ブリュレ脆い。
この状態からエコバッグに入れて自宅まで持ち帰ると。
さらに崩れる。
別にレジ打ちの人だって僕だって振り回したりはしていないのだが、雷神の儚さは尋常じゃない。
雷神を無事に家に持ち帰れる人がいるとは思えない。
そしてなにより一番不可解なのが、食べて見ても何がどう雷なのか分からない事。中にはクリームが入っているけど、別に特別な感じはない。
食感がバリバリ言うのかと思いきや、少なくとも深夜に買ったそれはそういう事でもない。
ただ、雷ブリュレって名付けられて模様がつけられただけ。
ただ雷ブリュレって名付けたの怖っ。
理由なき雷怖っ。
コンセプトが正気じゃない。
どの層をターゲットにしているのか全くわかんない。
って言うかどこもターゲットにしていない、雷神を生み出したかっただけの商品なのかもしれない。
裏側を見ると、”あけぼのパン”とか”オーロール”とか書かれている。
西友と一体どんな関係があるのか少し調べてみた。
まず、あけぼのパンと言うのは、あのフジパンの子会社。
所がだ、調べてみるとかつては缶詰で有名なマルハニチロのベーカリー部門会社。
それをフジパンが全株式取得して子会社化したらしい。
マルハニチロと言えば、赤い色に鮭が描かれた「あけぼの印」の鮭缶。ここであけぼのと言う名称が繋がる。
そしてそんなあけぼのパンが展開しているのがオーロールという名のベーカリー。
オーロールは独自の店舗も構えているが、多くはスーパーの中に出店する戦略を取っているとの事。
オーロールって聞くと低難度の体操技みたいだが、どうやらフランス語らしく意味は夜明け。
「あけぼの」と同義となる。
執拗なまでのあけぼの推し。
懐中時計開けたら横綱の頃の曙関の写真が入っているに違いない。
背中に曙のタトゥー入ってるかも知れない。
バスルームの鏡にルージュで「あけぼの」って書いて実家に帰るのかも知れない。
超怖ぇ。ルージュであけぼのはマジ怖ぇ。
フジパンに経営が変わっても「なんかマルハニチロさんってあけぼのへの執着半端無かったから、下手に名称変えるとめっちゃ怒られそうだな」とか思ってそのまんまなのかも。
そんな歴史を持つあけぼのパン。雷ブリュレとかいう尖った製品が出るのも、何となく頷ける感じがしてきたよ。